日の丸弁当は凄かった

日の丸弁当は凄かった

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どこの国にも、伝統的な独自の食文化があります。その独特な料理や食事法が、健康保持のための民族の知恵なのです。

 

それぞれの気候風土に合った食文化が、健康の原点になっていることを再認識することです。

 

その土地でできる食べ物と住む人の一体感がなくなると、いつか食文化は消えていき、栄養のバランスが崩れ、健康面に支障が出てくるようになります。

 

人も自然のなかで生きる生物である以上、そうした「身土不二」、その土地で採れたものを食べることが最も良いという原則から外れることは防がなければいけません。

 

一見、粗末に見える食事でも、長年の体験から培われた栄養バランスがあるからこそ、長い間、食べ続けられてきているのです。

 

たとえば、どこか貧しげな印象のある日の九弁当。見た目は確かに粗末な弁当ですが、実は大変合理的な携帯食としての偉力が隠されていることが証明されています。

 

まさに、先人の優れた考えに基づく弁当であり、民族の知恵から生まれた携帯食といっても良いでしょう。

 

グルメ全盛の昨今では、すっぱい梅千だけがおかずの日の九弁当を食べている人はいないでしょうが、食料不足の時代には一般的でした。

 

梅の偉力を知らないいまの若い人は、ご飯にすっぱい梅千という簡素な食事のどこが合理的か、と疑間を抱くかもしれません。

 

一個のすっぱい梅干で食事をすますことができるのですから、経済的なメリットもありますが、日の九弁当には、そのメリットより格段に優れた数々の効用があります。

 

まず、すっぱい梅千には強い殺菌効果があるため、ご飯の腐敗を防止します。また、米が酸性食品であるのに対し、梅千は小さくても強力なアルカリ性食品のため、米を食べて酸性に傾きがちな体液を中和し、酸性食品とアルカリ性食品のバランスがとれます。

 

さらに、すっぱい梅干に豊富に含まれているクエン酸が、ご飯が体内に入ってエネルギーに代わる際に、大変重要な働きをします。

 

エネルギー代謝にすっぱい梅干のクエン酸が大いに役立つことは、英国のクレブス博士(一九五三年に「細胞の物質代謝の研究」でノーベル生理医学賞を受賞)によって明らかにされています。

 

エネルギー源の米を不完全燃焼させずに、無駄なくエネルギーに代えるのに、すっぱい梅干のクエン酸が不可欠であることが解明されたのです。

 

日の丸弁当の偉力については、外国人が体験した面白い話があります。明治時代、ドイツ医学を日本に伝えた人物として知られるベルツ博士は、その『日記』のなかで次のような興味深いエピソードを紹介しています。

 

朝夕、巨漢のベルツ博士を人力車に乗せて、坂の多い東京の町を走る車夫は、小柄な体でした。

 

ベルツ博士は、その車夫の弁当が貧しげな日の丸弁当なのに、どうして粘り強い体力をもっているのか、不思議に思ったのです。

 

そこで、ベルツ博士は、車夫に毎日、牛肉を食べさせてみました。ところが、最初は喜んで牛肉を食べていた車夫が何日かしますと、「もうけっこうです。もう、息があがって仕事が続きません」と悲鳴をあげたといいます。

 

肉食によって体内が酸性側に傾き、クエン酸サイクルがうまく回らなくなって、体調が狂ってしまったわけです。

 

 

「おふくろの味」にある合理性

 

牛肉はエネルギー源としては最適のように思われますが、粘り強い体力を保つためには、つまり米を無駄なくエネルギーに替えるのには、すつぱい梅干が大変役立っていたということです。

 

日の九弁当という伝統的な携帯食には、深い「食の知恵」が隠されていたわけです。私たちの祖先は、今日のような科学的知識や栄養学を知っていたわけではありません。

 

四季折々の食物をおいしく、かつ、効果的に食べられるように創意工夫し、健康保持に役立つ料理を生み出してきたのです。

 

 

日の丸弁当に象徴されるように、 一見、質素に見えるものでも、実は栄養学的にはとても優れている料理・食事法を、体験として蓄積してきているのです。

 

それらは、暑い夏、寒い冬の季節を乗り越えるための、食養法だったのです。

 

よくいわれる「おふくろの味」は、古い時代から受け継がれてきたものです。食生活には食べる楽しみという一面がありますが、日あたりの良さだけがすべてではありません。

 

伝統的な食生活には、季節のさまざまな食物を取り入れた健康保持に役立つ料理があるのです。

 

「おふくろの味」が好まれるのは、単なる懐古趣味ではありません。季節の野菜・魚介類などを、その折々に用いて作った料理の味によって、実は健康保持に大切だということを思い出すからです。

 

それは、まさに伝統的な食生活に隠されている、民族の知恵というものです。

 

たとえば、ヒジキと油揚げの煮付けです。これは、海と陸の食物の組み合わせです。

 

と同時に、現代の人は知っていることですが、ヒジキはアルカリ性食品で油揚げは酸性食品という組み合わせです。

 

油揚げは〃畑の肉″といわれる大豆からつくられるもので、栄養面でとても優れています。

 

一方のヒジキは、海藻類のなかでもとりわけカルシウムが多く、タンパク質を約一〇%含んでいるほか、ヨードやカリウム、ナトリウム、鉄分、リンなどのミネラルも大変豊富です。

 

昔の人は、こうした知識を持ってヒジキと油揚げの煮付けをつくったわけではありません。

 

せいぜい海と陸の食物を組み合わせようという程度の感覚で、料理をして食卓に並べたと思います。味がまずく、体に良くなければ食卓には出されなくなっていたでしょう。

 

けれども、ヒジキと油揚げの煮付けは、現代まで「おふくろの味」として受け継がれてきました。

 

多くの伝統的な料理は、その食べ物の良さを体験した人たちの厳しい目をくぐってきています。

 

長い伝統のあるすっぱい梅干や梅肉エキスは、その代表例といってもよいでしょう。

 

当サイトで紹介していますように、いまでは梅の効能が科学的に解明されてきていますが、大昔はそうしたデータに基づく知識はまったくありませんでした。

 

季節ごとの伝統的な食生活・料理というものは、いわば非常に多くの人の長年の″臨床実験″を経て、今日まで伝えられたものです。

 

一時のブームで終わる料理は、人間の健康にとって本当に役立つものではなかったということなのです。